スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「二人で、ラブなホテルに行かないか」の巻

夜公園
流し目の由紀夫。


Pink Tea Time 1998年12月号

11月25日(水)
 ある朝のことである。 
「おっ、おじいちゃんが、チャーミーグリーンをガブ飲みして、意識不明の重体ですっ!」
  という電話が梅子お姉様から入ったのは。
「お酒とカン違いしたんですよ、きっと」
 と、梅子様は分析する。
「私たちもすぐ行くから、あなた、先に病院に行ってて!」
「大変なことになった・・・」
 と私は思った。なぜなら、そのチャーミーグリーンは、私がお父様(前述のおじいちゃん)の病室に置いてきたものだったから・・・(そこは、流し台がある病室だった)。
 しかも、年内には死なないだろうと医者が前に言ったので、年賀状も二百枚、購入したばかりなのだ。
 これでお父様が死んだりしたら、年賀状はどうするんだ。それに死因がチャーミーグリーンとなると、私が殺したも同然じゃないか・・・。
 頭の中には、「どないしょ」「どないしょ」の一言だけがぐるぐる回っていた。
 病院に駆けつけると、お父様は再びデスマスクのような顔で横たわっていた(10月号参照)。しかも、今度は酸素吸入器まで付けている。前回は生き返ったが、今度こそ死にそうだった。
 既にボケてしまったとはいえ、この病院の精神科に入って一ヵ月、お父様はかなり元気になっていた。寝たきり同然だったのが、自分で車椅子を操るまでになっていたのだ。
 なのに、担当のヤマダ先生もいらして、
「このまま意識が戻らなければ、亡くなる可能性もありますね」
 とおっしゃるのである。
 私の頭の中に、今度は年賀状とチャーミーグリーンの映像が交互に浮かんでは消えた。そして後悔の念が、「ガオーッ、ガオーッ」と身体の中を駆けめぐり、にわかに気分が悪くなってしまったのである。
 病室の外に出て、一人でオロオロしていると、そこはすぐ食堂になっている。たくさんの入院患者がテレビを見ながらくつろいでいた。精神科なので、身体の方はほとんど調子がいいのだろう。
 すると、妙な動きをしている私を指して、「この人、何号室の人?」 と一人の患者が言うのである。
 私は「ハッ」と気を取り直し、何事もなかったように、そそくさとその場を立ち去った。

11月26日(木)
 その日、万が一を考えて、私が病室に泊まることになった。チャーミーグリーンを持ってきたのは私だから、ここは仕方がない。
 看護士さんが、お父様のベットの脇に布団を敷いてくれ、ナースコールの押し方なんかも教えてくれる。その日の夜勤は、たまたま看護士さん(男性)が二人であった。
「一時間に一度は様子を見に来ますが、気にしないで下さい。休めるときは休んで下さった方がいいですよ」
 と、やさしく言ってくれたものの、こんな一大事に眠ってなどいられようか。私の目は、正義感と使命感に熱く燃えていた。
 しかも看護士さんは二人とも若く、一人は織田裕二似の、すげえいい男なのだ。梅子様も「かわいいよねぇ」と言っている。
 その「織田裕二似」の看護士に、私の「ゴジラ似」のイビキを聞かれたらどうする。
「いいえ私、寝られないと思いますわ」
 その時、とっさにそう答えていた。

11月27日(金)
 しかし、私は熟睡していた。
 ハッと気付くと朝の6時で、またウトウトしていたら、織田裕二が、
「皆さん、おはようございます。朝御飯の用意が出来ました」
 と、爽やかな声で館内アナウンスをしているではないか。これは一体どうしたことか。 お父様は? そして私のイビキはどうなったのか?
 隣のお父様は、相変わらず酸素吸入器は付けているが、知らぬ間に顔色が良くなっていた。ヤマダ先生も早々にいらして、
「容体は落ち着いてきましたね」
 などとおっしゃる。この病院の人達は、朝も夜もなんて勤勉なんだろう。
 一方、私はナースコールボタンも押さず、一晩を過ごした。私の立場はどうなるんだと落ち込みつつ、自分の職場に向かったのである。

11月28日(土)
 その後お父様は、不死鳥のように、急激に蘇っている。
 次の日、病院に行ってみると、
「オオッ、妹子。ちょうどいい所に来たな」 と言って、車椅子にシャンと座っているではないか。その時は本当に、
「このオヤジ、不死身だぜ・・・」
 と思ったものだ。でも、
「お前は何にする? コーヒーか? おじいちゃんは、んーーッと・・・水割りだ!」
 と続けた時は、
「相変わらずだ」
 と、脱力した。もう入院してから、一ヵ月だっちゅーの。
 しかし、話も前よりしっかりしており、一通りのツジツマは合っていた。
 タバコをせがまれて、「まだ飲める状態じゃない」と諌めると、
「そうだなぁ。今、タバコ飲みは大分減ってるんだ。タバコ屋も商売上がったりだよ」
 と、もっともなことを言う。
 大抵の話は分かるが、なぜか「ここは病院で、まだ退院できない」という話になると、それだけが聞こえない。本当に不思議だ。
 「帰るから、車をここまで回せ」と言うので、「お父さんは、まだ治ってないのよ」と言い聞かせるのだが、
「なに、車がまだ直ってない? 故障か?」 などとボケまくる。こういうところに、心の病の神秘を感じますよね。
 
11月29日(日)
 そしてお父様は現在、すっかり立って歩けるようになっている。ヤマダ先生も、
「驚異的です。入院前より元気になっちゃって、困りますよねえ」
 とおっしゃるのだ。
 ちょっと妙に思って入院棟に行くと、赤いブラウスに、クレヨンで眉毛を描いたみたいな化粧のオバサンが、私の手をしっかり握って言った。
「お宅のお父さんね、夕べ私の手を握って、『二人で、ラブなホテルに行かないか』って言うんです。私、心臓がバクバクしてしまいました」
 彼女にはもちろん丁重に謝り、看護士さんにもお詫びをすると、
「いやね。あの患者さんも、あんまり調子良くないんですよね」
「・・・・・・・」
 とにかくお父様が、ひでえエロじじいになっていることは間違いないだろう。次は一体どんなことになっているのか、ひやひやしながら病院に行く今日この頃である。
スポンサーサイト

COMMENTS

COMMENT FORM

TRACKBACK


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。