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Pink Tea Time 1998年10月号

日溜り。誰か来た!
                       春の日溜りで、ちょっと気取ってみたかった由紀夫


「それは、土曜サスペンス劇場のようでした」の巻

9月27日(日)
 野茂が先発ローテーションから外されてから、私は大リーグに全く興味が無い。
 8月にアメリカ・カナダへ行ったときは、3回も大リーグの試合を見たのに、今では「マグワイア」だろうが「マクドナルド」だろうが、アウト・オブ・眼中という状態だ。この変わり様は、一体なんだっちゅーの。
 8月3日に、ニューヨークのシェイ・スタジアムに行った時、私は野茂の登板を生で見た。
 日本でさえ、野茂の試合は絶対に見ないと決心している私だ(イライラするから)。それが、場所が場所だけに、仕方がなかったとは言うものの、「ナマ野茂」の試合を見ちゃったもんだから、興奮して疲れたのなんの。 そして私は球場で、
「おらおらバッター! 打つんじゃねぇ!」「審判! 今のがボールかぁ? ボケッ」
 などとダミ声で吠えまくり、夫には他人のフリをされ、ストレスも相当に溜まった。
 で、せっかくの大リーグをゆっくり観戦できなかったので、翌日、野茂が出ない日に、もう一度見に行くことにしたのである。
 次の日は、安心して試合を楽しむことができた。ジョーンズとかいう、全く面識のないピッチャーだったので、私は他人事のように観戦できたからである。そして内心、
「野茂よ。私の健康の為にも、いっそ引退してくれ」
 とまで思ったものだ。
 それが引退ではなく、先発を外された。そして、ボンレスハムのような腕をしたマクドナルドとソーサのホームラン騒ぎのせいか、日本でさえ誰一人として、「野茂」の「の」の字も口にしなくなってしまったのである。これはどうしたことか? あまりに薄情ではないだろうか。
 私が見たいのは、ボンレスハムではない!あの野茂の、キュッと出っ張ったキュートなケツなのだ!
 おっと、しまった。先月書いたトニー・レオンの「眩しい白さのブリーフ」といい、野茂のケツといい、どうも最近、私の「オバハン度数」が急上昇しているようだ。
 そういえば夕べ、突如として「ンゴゴゴ、ゴーッ!」という地鳴りのような音で目覚めたっけな。「ハッ!」として周囲を見渡したが、どうも私のイビキのようだった。
 秋の夜長、しんしんと自分のオバハン度が身に染みる、今日この頃である。

9月28日(月)
 他人のケツのことは実はどうでもよくて、ついにうちのお父様も、ダメなようなのである。二年前、ケンタッキーフライドチキンに日参していた、あのお父様だ。
「今日、おじいちゃん(お父様のこと)は救急車で運ばれたんですよッ!」
 と、梅子様から電話があったのは夜の九時。深夜2時頃、
「ドド、ドッカーン!」
 という物音に驚いた大輔(梅子お姉様の息子)が階下に降りてみると、トイレの前でお父様が血みどろで倒れていたのだと言う。
「それは、土曜サスペンス劇場のようでした」
 と梅子様は回想する。
 なんでも、仰向け・大の字姿で倒れていたお父様は、前頭葉の部分を何かに激しくぶつけ、ピクピク痙攣しながら血を流していたそうだ。瞳孔も開いていた。
 救急車の中で、お父様は、
「おじいちゃんはね、おばあちゃんの側で死ぬよ。入院はイヤなのじゃ!」
 と、繰り返し叫んだそうである。そんなにお母様を愛していたとは気づかなかった。
「とにかく酒の飲み過ぎです。先週、おばあちゃんが二泊三日の旅行に出てから、何も食べずに酒ばっかり。弱るのも当然ですッ」
 と、梅子様は手厳しい。
 
9月29日(火)
 病院に行くと、お父様は既に「デスマスク」のような顔で点滴していた。顔面が傷だらけ。手当ての跡も相当に生々しい。腎臓も弱っており、もう元には戻らないという。
「ああ、やっぱりダメなのね・・・」
 と目頭を熱くしていると、お父様は、
「お、おじいちゃんは、あ、明後日死ぬよ」 と、蚊の泣くような声でおっしゃる。それが見る者の涙を、より一層誘うのだった。
 すると、脇に付き添うお母様と梅子様。
 お母様「毎日こう言ってるんだよ。『明日』でなく『明後日』ってとこが潔くないよねぇ」
 私  「・・・・・・・・・」
 梅子様「もう死んでもいいのよ。好き放題やったし、おじいちゃんが行ったことがない場所は、あの世くらいです」
 私  「・・・・・・・・・」
  お父様は一晩で退院した。たった一晩だったのは、お父様が夜中に騒ぎまくったため、出されたのである。
 六人部屋で、一晩中、
「明後日、死ぬのじゃ。入院はイヤなのじゃあッ!」
 と、叫んでいたという。病院追放も当然だった。病院では、酒も煙草も飲めないから、確信犯と言えるであろう。
 それでも寝たきりで、死にそうなのに変わりはなく、近所の医者に毎日、点滴に来てもらうことにした。在宅介護ってヤツだ。
 そしてお父様は今、酒も煙草も飲みたいだけ飲んでいる。

9月30日(水)
 家で寝たきり状態のまま、「ティッシュよこせ!」とか「起こしてくれ!」と人に命令するので、家族は怒っている。
 そのくせ酒を持っていくと、「ガバッ!」と一人で急に起き上がるのが、実に不思議だ。あんまりうるさいので無視していると、仕方なく一人でトイレに歩いたりしている。
 耳が遠いので、お父様との会話は筆談だ。紙に書いて「今、朝です」とか「晩御飯はお粥です」といった具合。先日お姉様は、お父様にアンケートも実施していた。
「葬式はどのくらいの規模にしますか? ?盛大に。 ?身内だけで。」
 するとお父様は、「?身内だけで」を、じっと指さしたそうだ。
 新品の魔法瓶と包丁(二丁)が台所にあったので聞いてみると、
「葬式で家に人が集まったら、使うから」
 ということで、最近グリーン・スタンプで交換したのだそうである。準備万端だ。
 家族がとめても酒を飲むので、医者も呆れている。今日も医者に「三合は飲んだ」と報告すると、
「その件は聞かなかったということで・・」
 と言い残し、去っていった。すると、お父様は、その医者の背中に、
「ありがとう。また明日ね」
 と言い、手を振るのである。
 お父様は、どのくらい持つのだろうか?
「一体、どんな親じゃ!」
 というのが、私の本心だということを告白したい今日この頃である。
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