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先に毛ズネからの巻

見つかりました
「おっと、見つかりましたか…」 懐中電灯に驚く由紀夫。



Pink Tea Time 2001年 8月号

先に毛ズネからの巻

七月八日
『花様年華』を見に行った。愛しのトニー・レオン主演の不倫映画である。
 監督はまたしても『ブエノスアイレス』のウォン・カーウァイ。この監督、トニーの白いぴちぴちブリーフ姿に、ゾッコン惚れこんでいるんだねぇということは、想像に難くないのであった(Pink Tea Time1998年9月号参照)。
 ポスターがまた、いいのである。
 燃えるような紅色を背景に、半身を起こして横たわる、赤いチャイナドレスの女。すらりと伸びた足に、黒のハイヒールを履いている。トニーの不倫相手役だ。
 スネ毛の処理が大変だろうなという感想が、まず頭に浮かんだのは、私のいつもの習性であった。
 そして女のくるぶしに片手を置き、両太モモの上に顔をうずめるトニー・レオン・・・。
 よだれが出そうである。
 格好からすれば、
「ママぁ。ボク、おねむなの」
 とでも呟いていそうな形であるが、トニーのバリッとしたスーツ、そしてテカテカのポマードヘアが、アジア男の礼儀正しい色気を発散している。完璧なポスターであった。

七月九日
 私はその日、「ポスターのヒロインは私よ!」という意気込みで劇場に向かった。スネ毛はモサモサなので、チャイナドレスは決して着られないのに、もう完全に感情移入できるから不思議である。
 そういえば先日、職場の避難訓練で、大変な失敗をしたばかりだよな。救助袋「オリロー」の体験係に指名され、三階から滑り降りることになったのである。
 まず最初に、業者の諸注意があった。
 オリロー初心者の場合、ズルズルと滑るうちにシャツがめくれてしまい、ブラジャー丸見えだが頭はシャツで隠れているという状態で降りてくる人がいるという。そんなことになったら大変だ。
 そこで私は、シャツの裾をズボンの腹にしっかり押し込んで出発した。準備は万端だった。
 ところが、予想外のことが起こった。
 シャツはめくれなかったが、ズボンが裾から膝までズルリズルリとめくれ上がり、私は、毛ズネ丸見え状態で、救助袋の下から「ニュッ!」と出現してしまったのだ。勿論、先に毛ズネから。
 しかも、体験者のサポート役ということで、救助袋の出口で待っていたのは、M君ではないか。M君は職場でも評判の若くていい男。色は浅黒く、空手は四段である。
 悔やんでも悔やみきれない事件であった。M君は私の秘密を、予期せず目撃してしまったに違いない。

七月十日
 そんなホロ苦い思い出が、チラッと頭をかすめたが、私は気を取り直して、『花様年華』の世界に突入していた。それほど人もいなかったので、しっぽりと自分の世界に浸れる、人から少し離れた席を選んだのである。
私 「うふふふふ・・・」
 すると、開演から約二十分後。
 野球帽に作業ズボン姿の一人のオヤジが、どかどかと、私から程近い席に座るではないか。
 どうしたことであろうか。始めは何か急な改修工事でも入ったのか? と思ったのである。しかし違った。オヤジはなぜかそのまま『花様年華』を見ている。
 どうしたことであろうか。一体、なじょして判忠太(ばんちゅうた)のようなオヤジが、こんなロマンチックで静寂な映画を見に来るのか。高倉健の『ホタル』は東映ですよ、と言ってやろうかとも思った。
 しかし、オヤジは『花様年華』を見ている。
 そのうち次第に私は我慢ならなくなった。というのもそのオヤジ、大層息が荒いのである。
 蓄膿症であろうか。それとも鼻くそが詰まっているのか、息をする度に「ガーガー」言っている。おかげで私は、トニー様との世界に没頭できなくなってしまったのだ。
 それだけではなかった。荒い息が、ますます荒さを増していったかと思うと、ある時点から「ンゴーッ!」「ゴゴゴーン!」という嵐のようなイビキに変化していたのだ。
 許せなかった…。
 私は「オヤジのイビキ鑑賞会」のために千七百円も払ったのでは断固としてない。天に代わって誅戮(ちゅうりく)してやりたいッと、私はその時、猛烈に思ったのである。
 そういえば二週間前、お母様とホテルに泊まった時も酷い目にあったばかりである。
 実は私も人呼んで「夜明けのゴジラ」。可愛く楚々とした外見にも似合わず、ちょっとイビキをかく習性があることを、既に知らない人はいない。またそれが遺伝であることも、周知の事実である。
 お母様は隣のベッドで、一時間はたっぷり重低音アナログ・サラウンド型のイビキをおかきになっていたが、次の朝私が指摘すると、ケロリとしておっしゃるのである。
「えッ、私がイビキ? そりゃおかしいねぇ。昨夜は、かかないつもりだったんだよ」
 うーむ…。お母様はもしかして、「イビキ自由自在法」などという幻の秘技を修行中なのか?
 バケモノと言われるお母様であるから、あり得ない話ではない。完成したら、是非私にも伝授願いたいと切に願ったのである。
 
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