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三年間、ずっと風呂場で悩む私の巻

のび



Pink Tea Time 2001年 1月号

三年間、ずっと風呂場で悩む私の巻

12月7日(木)
 年と共に物忘れが激しくなるのは仕方ないことだろう。
 私は、松子・梅子両お姉様の電話番号をスラスラ言うことができない。二十年間、電話するたびに同じ住所録をめくるので、そのページが手垢で黒光りし、最近は紙が劣化して破れ始めている。
 友達は、
「電話機のメモリーに登録すればいいじゃん」
 と気軽に言う。しかし私には、電話機のメモリー操作法がわからない。
 そういえば半年前に購入した全自動洗濯機の操作方法もわからないよな。だから、洗濯はいつも夫の仕事となっているほど、私は機械音痴であった。
 電話するたび、新しい住所録に書き写そうとも思う。しかし、私のプライドがそれを許さない。
「わざわざまた書かなくても、すぐに覚えられるわよッ!」
 という自負心が、むくむくと沸き上がってくるのである。しかし、その自負心を、私は二十年間持ち続けている。なぜならお姉様の電話番号は、二十年間変わっていない。だから年のせいとはいえ、やはりこの物覚えの悪さは尋常でないような気がする。
 すると夫。
「二十年覚えられないんだから、年のせいじゃないだろッ!」
 むむ。その通りである。痛いところをつかれてしまった。私の物覚えの悪さは、最近、突如として起こったというわけではなく、昔からであったと言えないこともない。
 が、ちょっと待ってもらいたい。他のことは人並みであるが、無意味な数字の羅列だけはダメという人はいるものではないか。
 ある高校の野球部は大変強く、各地から体と体力に自信のある者どもを集めていると評判であるが、監督のサインを三つ以上覚えられなくて、大変困っているという話を聞いたことがある。だから、こういったことは往々にしてあるものだ。
「数字の羅列と野球のサインと、直接の関係があるわけ?」
 と、脇で夫が言っているようである。しかしまあ、似たようなものということで、ここは見過ごしてもらいたい。

12月8日(金)
 そんな私の今日この頃であるが、実は最近「本当にボケたんじゃないか?」
 と真剣に悩んでしまう時があるのだ。それは毎晩、私がお風呂に入る時である。
 私は、洗髪は一日おきと決めている。以前は毎日洗っていたが、髪がめっぽう薄くなると梅子お姉様にアドバイスされ、回数を減らしたのだ。
 梅子様は、髪の薄さに大変敏感な人だ。もちろん、ハゲ男に興味があるわけではない。「シャンプーが引き起こす女性の薄毛現象」というものに大変興味があり、女性の薄毛と洗髪の因果関係を、日夜解きあかそうとしている人物なのだ。
 だから、一緒に出掛けると、
「ほら、さっきの人! 美人なのに、地肌が透けて見えてたよね。原因はシャンプーですよッ」
 とよく言っている。
 一方、お母様は「カツラ」に大変敏感だ。一緒にテレビを見ていても、
「ほらほら、この男! よーく髪の生え際を見てごらん。ふふふ・・・カツラだよ」
 とよく言っているよな。多少の違いはあっても、本当に血は争えないということを思い知らされる現象なのであった。

12月9日(土)
 話を戻そう。
 お姉様のアドバイスで、シャンプーは一日おき、シャンプーをしない日はお湯で髪を丁寧にすすぐというサイクルを守っている私。何も悩む必要はない、簡単な習慣に見える。 ところがだ。この「一日おき」というのが大変なクセモノなのである。毎晩お風呂に入り、いざ髪へという段階になると、はて、今日はシャンプーの日であったか否かを、なかなか思い出せないのだ。
 つまりシャンプー液を使わなくても、お湯を使い、両手で髪をすすぐのだから、動作は同じわけだ。その時にシャンプー液を使ったか否かの違いだけなので、毎晩、昨夜はどうだったか、頭を抱えて思い悩むのである。
 そこで私は、前日の行動を時間を追って総復習してみる。
「昨夜は本屋で立ち読みしてから、ユニバースの半額寿司を買った。そしてビールをグビグビ飲みながら夕食。そして・・・・」
 いっそカレンダーに印をつけたらどうなのと松子様はおっしゃる。それは道理である。しかし、私のプライドがそれを許さない。
「わざわざ書かなくても、すぐに思い出せるわよッ!」
 という自負心が、むくむく沸き上がってくるのである。しかしその自負心を、私は三年間持ち続けている。なぜなら、この洗髪習慣を確立して、三年以上経っているからだ。
 また、必死で過去を思い出すことで、一日を反省できるという思わぬ副産物もある。
「やっだー! 夫に百円貸してたんだわ!」
「ゲッ! 七十八円の卵買うの忘れてた」
 といった具合だ。
 それにこの「反省」をやめてしまうと、記憶力の衰えは留まるところを知らないのでは? という不安も否定できない。

12月10日(日)
 実は私の夫、かなりの記憶力の持ち主だと断言していいと思う。そしてその秘密は、時間を遡ることにあるのではないか? と、私は常日頃思っているのだ。
 二人で旅行した時、それを痛感する。
 お金に厳しい我々の旅行は、完全ワリカン制。だから私は、二人で一定額を出し合い、共同の財布を作ることをいつも主張している。帰宅後に、また残金を半分こすればいい。
 ところが夫はどうしたことか、断固としてイヤだと言う。そのかわり、夫は夜寝る前に「本日の精算」と称し、その日に使ったお金を完全に計算してみせるのである。
 これは本当に「驚愕」である。メモもないのに一円単位で全て、電車の切符から動物園の入場料、途中の屋台で買った石焼イモ、そしてスーパーの買い物まで、本当に一日分を、全て、きれいに、まるっと思い出すのだ。しかもそれを誰が払ったかまで覚えている。
 どうしてそんな離れ技が出来るのか? 確かにドケチだからって、それは凄すぎるんじゃないか? と言うと、夫。
「なーに簡単さ。朝から今までの行動を順番に追っていけばいいんだよ」
「ふーん・・・・」
 という訳で、私もその日の行動を、毎晩復習している。なのに三年間、ずっと風呂場で悩んでいる私は、一体何なのか?


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