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竹の恩返し物語の巻

CIMG1815.jpg 「恩を仇で返す」男、由紀夫。




Pink Tea Time 2000年6月号 
「竹の恩返し物語」の巻

5月25日(金)
「今日、漢字が書けなかった」
 としょんぼりする夫。なんでも、「特別予算を奮発する」という文の「フンパツ」が書けなかったらしい。
「僕は使わない単語だからね。他の人は『今日は奮発してビフテキだぁ!』とか言うんだろうけどさ」
「・・・・・・・」
 そして、夫。自分のライフ・スタイルにおける「奮発」の使用例を、あれこれ思いめぐらしてから、こう言ったのである。
「そうだな。僕なら『よしッ! 今日は奮発して、半額パンを三個買おう』ってとこか?」
「・・・・・・」

5月28日(日)
 そんな大野家で、今、実は大変な事態が進行中なのであった。
 一年前に買った、この中古の家。玄関脇には、シングルベット程の広さの花壇があり、珍しいことに竹が4本植わっている。
「なんで、青森に竹なわけ?」
 と当初、奇妙に思った。そのしるしに引っ越した時、竹は相当弱っており、完全に枯れた一本を切ったほどであったから・・・。残りの竹も時間の問題だと私はふんでいた。
 ところがである。あの夫が、まるで我が子のように、竹に愛情を注ぎ始めたのである。
 元来夫は、人間以外の生き物に全く興味を示さない、冷血人間である。
 動物は勿論、植物にも無知・無関心。木といえば松と桜しか知らず、魚も金魚とナマズしか区別ができない。桜だって花が散ったら判別不能だと言っていたよな。
 私が入院した時、「観葉植物に水をあげてね」とあれほど頼んだのに、一週間で4鉢枯らしていた。花瓶の花もドライ・フラワーとなり、中の水はドロドロ。それほど、グリーン・キラーな男なのだ。
 が、竹となると話が違った。あれは一年前。
 夫は玄関先で毎日、茶色っぽくなった竹を見上げ、葉っぱを観察していたものだ。今思えば、「竹くん、生きてるかい?」などと語りかけていたんだと思う。
 そして日曜日には、じょうじょうとホースで大量の水をやる。どんなに疲れていても、どんなに帰りが遅くなっても、
「あ。竹に水あげよ」
 と立ち上がるのだからすごい。毎晩テレビの前で、パンダのようにゴロゴロし、『ドカベン』や『ルパン三世』のビデオを見ている夫とは別人のようだ。勿論、手には「半額パン」をいつも握っている。
 ひょっとして夫の前世は、竹林生まれのパンダか? たった4本の竹に、自分の故郷を見ているのか? などと、一時考えたこともあったほどだ。
「もう、枯れてるんじゃない?」
 と私が言うと、両手を後ろに組み、目を細めながら竹を見上げて夫が言った。
「いや、見てみなさい。枝の先に小さい緑の葉っぱが出てきてるよ」
本当なのである。季節も暖かくなったせいだろうが、あれほど茶色い箒のようだった竹が、スクスクと若葉を繁らせ、緑色の幹を回復するまで、さほど時間はかからなかった。

5月29日(月)
 そして一年後の春。
「あ。竹の子」
 と、ちょっと驚きの声を上げたのは二週間程前。
 昔話では聞いていたが「竹の子」というものが、本当に地面からニョキッと顔を出すところは初めて見た。
「ふーん、竹の子かあ。これ食えるの?」
 などと夫と話してから「3日」ほど経ったであろうか。朝、何気なく花壇を見たら、ゲゲゲッ! 例の竹の子が、なんと30?ほども成長していたのである。三日前にはチョコンと頭を見せていただけの可愛らしさだった。それが、三日油断していただけで、今は身の丈30?。すると、一日10?! 
 そんな、バカな・・・。これって「ドッキリTV」か?
 そして夜、床についてから、思い出して夫にそのことを話すと、
「僕も確かに見た。しかも二本あるよね」
「エッ! 二本?」
 焦って私は、ガバと布団をはね除け、パジャマのまま玄関に出て、竹の子を見た。
 なぜ見落としていたのだろう。確かに膝の高さ程の竹の子が「ニョキッ!」と二本ある。しかも、朝見たときより10?は大きくなり、今は50?に届こうという勢いだ。そして、竹の子を包む皮は夜露にキラキラ光っていた。
 ああ、恐ろしい。確かに三日前、いや今朝も、竹の子は一本だったのだ。これは本当に植物か? 本当は「竹の子星」からやってきた、「竹の子星人」ではないのかと、私は不気味な物を見るような目で、冷たい夜の暗闇の中、ジッと竹を見つめていたのである。

5月30日(火)
 「鶴の恩返し」というのがある。ひょっとしてこれは「竹の恩返し」ではなかろうか。
 男に可愛がられ、命を救われた竹。すると竹は「竹の子星人」となって現れ、男に恩返しをする・・・。するってえと、これを切ると、中には小判がザクザクか? それとも、いい女「かぐや姫」が登場するのか?
「いや、女じゃなくて、いい男が入っているかもしれませんよ」
 職場で「竹の恩返し物語」を聞いた同僚が推測する。そうかあ、いい男かぁ。そもそも、この中古の家を見つけて来たのは私だからね。
「それにしても、早いうちに切って、油炒めにすればよかったじゃないですか」
 それもそうだ。このまま放置しておけば、ほんの小さな花壇が、中国四川省の竹林になってしまう。
 そして同僚は、いっそのこと庭でパンダを飼えばいいんじゃないかと言う。
 庭にパンダ・・・。

5月31日(水)
 そして今。竹の子発見から約二週間後・・。
 あの竹の子はもはや「子」ではない。はっきり言って「竹の、ジャイアント馬場さん」だ。高さは既に3m以上。しかも新たに二本の「竹の子」が顔を出している。
 この「竹の恩返し物語」、一体どうなっていくのであろうか。
 その続きは、うーむ。


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