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マシンガントーカー、テツ子の巻

CIMG0984.jpg 「なぜもう、自分よりデカイ・・・」とガックリ肩を落とす由紀夫。あ、落とす肩は無いんだった。なで肩だから。




Pink Tea Time 2000年4月号 


3月25日(土)
 ここは帝国劇場。
 お母様に連れてこられ、ミュージカル『ローマの休日』を見ているのである。
 お母様は74才のミーハー。ちょっと前は『サラリーマン金太郎』の高橋克典に夢中だった。そして、娘たちに高橋克典の歌のテープを配り、無理やり車中でも聞かせていた。本当に迷惑だった。
 今は、金太郎などコロッと忘れた様子で、俳優の内野聖陽がターゲットである。映画『黒い家』主演の、あの栄養失調男。一体どこがいいのか。お母様は、「内野さん」とか「聖陽さーん」とか、知り合いのように呼んでいる。
 それともう一人、色黒俳優・山口祐一郎。 私はTVドラマ『魔女の条件』の悪徳医師役しか知らない。ところがこの男は結構ドラマ等で、黒い顔に白い歯をきらりと輝かせ、熟女殺しの演技を見せていたらしい。
「山口さんは歌がすごーくうまいんだよ。妹子、チケットを取っておくれ!」
 ということで、『ローマの休日』は大地真央と山口主演のミュージカルなのであった。親孝行にいちいち付き合うのも大変だ。
 私はミュージカルなど興味が無く、隣の若いアベックが気になっていた。
 女のほうが、やたらと左手をかざすような仕種を見せている。隣のニヤケ男と嬉しそうに話しながら、それを何度もやる。すると、おっ? 暗闇にキラリと光る、ダイヤモンドがゴロリッ。どうやら婚約したてのカップルらしいのであった。
「ふふん。かわいそうに。それが不幸の入口なのよね」
私とお母様は帰り道に話し合った。隣の女は劇の途中、王女とジョー・ブラッドレーの別れで、鼻水を垂らしていたよな。
「甘いよねぇ。ローマの休日だってさ、たった一日だから燃えるわけよ」
「そうそう。これがさぁ、1年もしたら、芝居のチケットも指輪も、買ってくれるのは自分だけよ」
「わかっちゃないよねぇ」

3月26日(日)
 翌日。
 結婚式場では、テツ子叔母さんが、指差し確認をしながら仕切っていた。
 八戸のテツ子叔母さん・・・・。実の妹であるナオ子・クニ子両叔母も、呆れるあまり関わりたくないという、仕切り屋&喋り好きである。大好きなのは喫茶店。コーヒー一杯で3、4時間はねばり、主婦仲間と毎日喋りまくっているという人物だ。
 テツ子叔母さんは専業主婦だが、なぜか毎日バスで出掛ける。喫茶店の人は毎日来るので、保険の外交員だと思っていたそうだ。バスの運転手には、定期券を勧められるという。
 去年のお父様の葬式でも、よく喋ったよな。
「まあまあ妹子ちゃん、大変ねぇ・・・」
「女三姉妹で本当よかったわぁ・・・」
「そうそう、うちのヒロは今東京で・・・」
「まあ、そのお茶碗、とても素敵」
・・・・付け入る隙を与えないマシンガントーク。一体、いつ呼吸しているのか?
 喋る時、「そうそう!」と言いながら、相手を何回も指差し確認するのが癖だ。相手の手を両手でギリッと握り、ブルブルと振り回したりもする。
 物静かなクニ子叔母さんは、それを見て、うんざりしながら法要会場を去っていった。ドングリ目のナオ子叔母さんは、手を握られた私を心配し、
「妹子ちゃん。指輪、抜かれてないか?」
 と、いちいち確認していた。
 大変な社交家、テツ子叔母さん。行く先々で延々と喋るので「疲れを知らない女」とも呼ばれているのであった。

3月27日(月)
 で、今回の東京旅行は、そのテツ子叔母さんの息子ヒロちゃんの結婚式が目的であった。
 高級な店や家が並ぶ広尾の、「羽澤ガーデン」が披露宴会場。よく将棋の名人戦も行われるという、由緒正しい建物だ。
 ここでは、新郎新婦による「餅のつき初め式」というのが行われる。初めて見せてもらったが、きっと日本式の「ウエディングケーキ入刀」に該当するのだろう。その後、出来た餅は列席者に振る舞われる。
 羽織袴の新郎が杵を「ヤッ!」と振り上げ、餅をつく。受けて、文金高島田のズラを被った新婦が、たすき姿でかがみ、餅を「ヨッコラショ」とこねる。このポーズを「パシャッ!」と写真に撮るのが、披露宴のクライマックスとなるのだ。
 ふと思った。なぜ、立って杵で餅をつくのが男で、しゃがんでコネるのが女なのか? 
「次は、嫁に杵を持たせてみろッ!」
 というのが私の率直な感想であった。
 そんなことは全く考えない様子で、脇で音頭を取るのは、もちろんテツ子叔母さん。
「ハイ、良くできました! 次はあなた」
 と指を差し、
「ハイあなた、そこ写真撮って。ハイ、次あなた。ペッタンコッと」
 と、次々指差し指名しては、交替で餅つきをさせている。新郎新婦の後、列席者も餅をつくのが習わしだという。一方、夫である叔父さんは、おとなしく横でボーッと見ている。その間も叔母さんは、休むことなく指を差しているのであっった。
 ナオ子叔母さんが目をクリクリさせて言うには、叔父さんももう諦めているらしい。家に居られるとうるさいから、お金を渡して出掛けてもらうんだという。叔父さんは無口で、庭の手入れが趣味。ご飯も自分で作るというから、本当に出来た人だ。
 息子のヒロちゃんの家庭も、こんな夫婦になるんじゃないかと予感させるものがある。だって、12も年下のお嫁さんは、「鉄人レース」と言われるトライアスロンの選手だというからね。
 まさに因果である。テツ子の家に嫁に来た、「テツ人」・・・。
 出来た餅にアンコを付け、バクバク食いつつ、私はそう思った。叔父さんの血筋は、「疲れを知らない女」を自然と選んでしまう運命にあるのだろうか。

3月28日(火)
 披露宴は無事終わり、送迎バスに乗り込んでも、テツ子叔母さんが帰ってこない。新婦側の一族と、また、腕を振り回しながら喋りまくっているのだろう。待ちくたびれたナオ子叔母さんは、バスを降りて迎えにいった。
 夕方、私がホテルに帰ってみて驚いた。一行は、迎えに降りたナオ子叔母さんを、会場に置き忘れて来たという。
 最後にテツ子叔母さんがバスに乗り込み、発車して小一時間。ホテル到着まで誰一人、ドングリ目のナオ子叔母さんが居ないことに気付かなかったというから不思議だ。
 テツ子叔母さんはなぜ、この時に限って、「指差し確認」をしなかったのか? 肝心の場面で得意技が生かされなかったとは、本当に悔やまれるところである。


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