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「君は福耳じゃないけど服尻だから」の巻

ラッコ科かも横顔は、ラッコ似の由紀夫。



Pink Tea Time 2000年3月号

2月24日(木)
 不幸のドツボにハマっている私は、現在、骨折で入院中というのはご存じの通り。私に激突したスノーボーダーの行方は、その後も杳(よう)として知れない。
「家を買ったら、二年は注意しろって言うからね。御祓いしてもらった方がいいんじゃないの?」
 と知人に言われたのは、去年の三月。中古の家を買い、引っ越しの三日後に階段から落ちて、私がギブス姿になった時のことだった。
 夫は直ちに賛成した。
「そうだよ! 新しい家の表札が出来たらさ、それ持って御祓いしてもらおう。ねッ!」
 いつもなら夫は、神も仏も信じない男だ。それなのにこんなことを言ったのは、自分も一月前、「おたふく」と「つづらご」のダブルで入院していたからである。
 まだ残っていた眉間の赤い「つづらご」痕が、大槻ケンヂにちょっと似ていた。
「そう、そうよねッ!」
 松葉杖をつきながら、私もニッコリ答えるしかなかった。
    
2月25日(金)
 今思えば、その「御祓い」が悪かったのではないか。「家の御祓い」と言えば誰だって神主を家に呼び、バッサバッサと御弊を振り回していただく、ありがたい風景を想像する。記念植樹なんかもしたりして(うそ)、費用もそれなりに必要だろう。
 ところが夫は違った。
 注文した表札が出来上がったある日の夕方、
「さあ、これから御祓いに行こうか!」
 と、ジャージの上下にゾーリ姿で夫は言うのである。『ラッコ温泉』にでも行くような恰好であった。
「ヘッ? こんな時間に? 予約でもしてるの?」
「何を言うんだ。御祓いなんて、ちょっとそこの神社で拝むだけでいいんだよ」
 「そうかぁ?」など疑いつつ、私も仕方なく、ジーパンのまま付いて行く。二人は完全に『ラッコ温泉』モードであった。
 夫は広田神社の賽銭箱の前に、出来たての表札を置いた。こんな二人だけの「御祓い」でも、せめて御賽銭だけはと、私が千円札を入れようとすると、そこで夫が絶叫したのである。
「アアーッ! 一体何をするんだッ! お賽銭は昔から、五円と決まってるだろッ」
 「そりゃ、あんまりでっせ」という私の反対を「いいの、いいの」と断固阻止し、私に五円玉を財布から無理やり出させる夫。私は、さらに仕方なく、チャリーンと五円玉を一つ賽銭箱に投げ入れた、その瞬間であった。
 待ってましたッとばかり、私の横に「ササッ! ピタリ!」とスリ寄って、パン、パンと合掌した夫・・・。そして自分は、一銭も投じようとしないではないか。
 他人が賽銭を投げた瞬間の御利益を、自分も一心同体となって享受しようというこの瞬間芸。誠に、あっぱれと言うほかはない。

2月26日(土)
 その三ヵ月後、お父様は亡くなった。年が明けて間もなく、私も骨折・入院という体たらくである。
 医者に外出を許され、家で見ていたテレビで、手相や福耳の話をしていた。ふと見つめ合う、夫と私。二人とも、気付けば幸薄い耳たぶをしている。すると夫。
「大丈夫。君は福耳じゃないけど、福尻だから」
 やかましいのである。賽銭を投げない男に言われる義理はないのである。
「災いは弱い者に及ぶって言うから、ペットを飼うといいのよ。ペットが身代わりになるんだって」
 とも言われたので、金魚を数匹飼うことにした。「賽銭五円事件」直後のことである。 しかし、金魚は身代わりになってヨロヨロと弱るどころか、今もピンピン泳いでいる。心なしか太ってもきたようだ。
 毎朝、金魚に餌をやる。金魚はバックバックと食らいつく。ふと思った。
 ひょっとして、私達が金魚を飼っているのでなく、金魚が私達を飼っているのではないかと。そして、私達が金魚の生贄となっているのではないか? と・・・。

2月27日(日)
 いや、思い過ごしである。
 それにイザ入院してみると、不幸な人は私だけじゃない。随分と不幸の上級者がいるということが次々と判明してきたのである(以下、仮名によるドキュメンタリー)。
 同じ病室のタマさん(30代)は、同居していた義父が一昨年、蜘蛛膜下出血で身障者に。それを毎日介護していたお義母さんが、去年ポックリ亡くなった。つまり、介護疲れね。
 困ったのはタマさんだ。彼女も働いているので、お義父さんを仕方なく施設に置くことに。ところが親戚はそれが気に入らず、絶交状態になってしまった。間もなく夫もナントカ病で入院。やっと退院したと思ったら、停車中のタマさんの新車に、雪で滑った車が追突・・・。
 怒濤の「椎間板ヘルニア妻」となってしまったのだった。
 さて、隣のベットのイヌガミさん(50代)は、家で転倒、骨折。これはよくある話だ。
 ところが、彼女を含めてイヌガミ家に来た三人の嫁が、全員、この一年の内に入院しているという。もう一人も骨折、もう一人は脳溢血で…。こりゃもう、呪われているとしか思えない。

2月28日(月)
 驚くのは早いのである。「不幸クラブ部長」のような人が、まだいたのだ。先日、「大安」を選んで退院したという、ツルカメさん(60代)がその人である。
 数年前に孫を一人、交通事故で亡くしたのが不幸の始まり。「料理は私にさせたことがなかった」という優しい夫も、6年前、癌でアッと言う間に他界した。二度も車に突っ込まれた過去がある長男は、現在リストラで失業中。昨年末には、次男が勤務先で骨折。その手術で長男が病院に付き添っていた夜、なんと隣家が火事を出したそうだ。
 その時、一人で家に居たツルカメさん。避難警告にあわてて飛び出し、消防車のホースに躓いてゴロッ!と転倒。今度は自分が足を折り、こうして入院したというのだ。結局家は無事だったが、状況的に隣家からの補償金は、一銭も出ない怪我なのだという。

2月29日(火)
 我等「整形外科・不幸クラブ」のメンバーは、お互いの不幸を一挙に語り合い、涙を流した。ギブスをさすり、シップを張りながら、さめざめと泣いたのである。そして、
「神も仏もありまへん」
 これが「不幸クラブ」の部訓となった。
 それなのに部長のツルカメさんが、わざわざ「大安に退院」とはどういうことか? 人間の弱さと不条理を、そこに垣間見てしまうのは、果して私だけであろうか。
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