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「死んだのは自業自得だから、誠に諦めなさい」の巻

CIMG0868.jpg座布団二枚重ねが大好きな由紀夫。必ず、一番高い座布団を選んで寝る。



Pink Tea Time 1999年12月号

11月17日(水)
 午前5時前。
 突然の電話は、梅子お姉様からだった。
「妹子。お父様がさっき、病院で息を引き取ったよ・・・」
 涙で声を詰まらせる梅子様。
 予想はしていたが、信じたくなかった。一週間前に急に熱を出し、四度目の救急車にお世話になったというお父様。その時、
「今まで生きていたのが奇跡です。親戚を呼んだほうがいい」
 と医者に言われ、さっそく喪服の準備に取りかかっていた私たち一家であったが、こんなに早く神に召されるとは・・・。
 松子様は喪服準備の傍ら、子供のヒロシと鶴子も遠方から呼び寄せて、永の別れをさせていた。さすが、長女である。
 一方お母様ときたら、喪服はしっかり揃えていたくせに、
「医者は皆大げさなんだよ。おじいちゃんはね、死にそうなそぶりを見せて、なかなか死なないの」
 と高をくくっていた。そして息も絶え絶えのお父様を、いつものようにビタビタ平手で叩いていたよな。顔と言わず、腹と言わず。死にそうなのに「タバコッ!」とか「帰るッ!」とか暴れるから、仕方ないけど。

11月19日(金)
 JRの困った忘れ物の中に、時々「お骨」というのがあると聞いたことがある。
 世の中は本当に広い。そんなバチ当たりな人も、世間にはいるんだなぁなどと、その時は義憤を禁じえなかったが、そのバチ当たりは、実は自分だったということが、今回露顕したのである。
 お通夜当日。
 お母様と私たち姉妹は、前々から用意万端の喪服を着るべく「みやこ美容室」にゾロリと出掛けた。「みやこ美容室」は、着物マニアのお母様がいつも利用する、料金のリーズナブルな美容院である。
「思ったより急だったよね」
「でも、長く寝ないでよかったわ」
「葬式も、まだ雪がない時で好都合だよ」
「ほんと。家族孝行、家族孝行」
「こっちの着物がいいんでない?」
「これじゃあ私が未亡人だわよ」
「そーおー」
「ペチャクチャ、ペチャクチャ」
 ・・・・・涙で化粧もままならぬ着付けであった。
 その後、我々はタクシーで、式場のコミュニティーセンターに直行することにした。
 ところがお母様が数珠を忘れ、途中、お母様だけ、家に寄ることに・・・。「いやだ、そんな大事なモノ忘れて」と呆れながら、式場に到着した我々姉妹は、
「おや、まだお骨と遺影が来てないねぇ」
 など思いつつ、早々に悔やみに来てくださった人々に、泣きながら挨拶をしていた。
 数十分後。数珠を握りしめ、妙に焦ってやってきたお母様が、玄関口で息も絶え絶えにおっしゃるのである。
「ちょっと! お骨を忘れるとこだったよ。数珠だけ持って出ようとしたら、手伝いの人が『お骨ッ! お骨ッ!』て、追ってくるもんだからさ。あれって喪主が持ってくるんだねぇ」
「ゲッ・・・。忘れてた・・・」

  ・・・祭壇はに立派であった。遺影も一昨年、親戚の結婚式の際に、写真館で撮ったというもの。正装するのは珍しいからと、お母様がお父様をわざわざ写真館に連行して撮影させたのだという。
「へぇ、お父様、総理大臣みたいねぇ」
「死んだら、この写真にキマリだよ」
 と当時から言っていたが、考えるに、お母様はその頃から着々と準備していたのではないか。
 とりあえずお通夜は順調に終わった。身の回りの荷物もまとめ、貰った香典入りの鞄も持ち、帰ろうとして草履を履いていたら、後ろから葬儀屋が叫ぶのである。
「アッ、お骨を忘れてますよッ!」

11月24日(水)
 翌日は葬式。
 同じ失敗を繰り返しては、さすがに遺族の沽券に関わる。そして「お骨」は梅子様、総理大臣のような「遺影」は私、と係分担し、恭しく現場に持参した。
 どーだ。これで文句はなかろうと、誇らしい気持ちで遺族席に座っていると、再び後ろから葬儀屋が叫ぶのである。
「アッ、戒名がないッ!」
 お骨・遺影・戒名入りの位牌。これは喪主の三点セットだそうだ。
 うちは浄土真宗である。この宗派では戒名(正しくは「法名」)を位牌に書かず、ペロンとした薄い紙に書いて吊るすのが流儀だ。だからあんまり有り難みがない。ついつい忘れるのも仕方ないと思う。
 とりあえず我々は焦り、あたりをうろついていた「おバカなヒロシ」に、急いで持って来いと言いつけた。このヒロシ、体格や外見は立派で、ピシッと喪服を着て受付に立つと、毛が三本足りないとはとても思えぬから不思議だ。
 ところが数十分後、なぜか手ブラで、悠々と帰ってきたヒロシ。ヒロシは法名が書かれた紙を、きちんと二つに折り畳み、茶色のコートのポケットに入れてきていた・・・。
 この「法名」は、初七日の時も紛失して大騒動を巻き起こした。正座したお坊さんが読経しようと仏壇に向いた時、
「ん? 法名は?」
 と、突然言い出したのだ。
 「ウッソー」「エッ?」と言いながら、皆で辺りを捜しても無い。ようやく「カンヅメ詰合せ」の箱の隣の、弔電を入れたビニール袋の中から、私が発見したから事無きを得た。しかし、もし見つかってなったらどうなっていたのか?
「こんなことは、坊主人生で初めてです」
 と坊主も呆れた事件であった。
 しかし、その坊主だってひどい男なのだ。何がひどいって、お父様の法名がひどい。人呼んで「自得院釋誠諦(じとくいん・しゃくじょうたい)」。
 「釋」は仏のことで、「誠」はお父様の名前の一部だそうだが、「自得」は「自業自得」のことだという。これは仏教上、ナントカという意味だと坊主は説明していた。しかしそんな有り難い含蓄は、今となっては誰一人思い出せない。
 ただ我々は、「死んだのは自業自得だから、誠に諦めなさい」ということなんだろうなぁと解釈している。お父様に限っては、全くその通りだからだ。
            (つづく。多分)
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