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人に家に来て寿司を食う時は六個までだッ!の巻

また寝ている
由紀夫、ヒロシの生まれ変わりかも。



Pink Tea Time 1999年11月号

10月27日(水)
 ヒロシ、25才、ちょっと前までフリーター。過去にセンター試験を、連続4年受験した男である。
 「不死鳥」にして「頭フサフサ」のお父様、
「ドケチライフ」な夫、「鉄の女」松子様など、強烈な大野家の人々に隠れていたが、何を隠そう松子お姉様の一人息子。大野家の秘密兵器として、永遠に秘密にしておきたかった、おバカな息子なのだ。その「おバカ」を遂に紹介する時が今日、来たのである。

10月28日(木)
「知恵なき者は汗を出せ!」
 が、ヒロシに対する松子様の口癖だ。
「お前は毛が三本足りないんだから、それを悟られるなよッ」
 とも言われている。サルのようなあしらわれ方だ。
 学校の成績は常に安定して、下の下。毎日熱心に、ズッシリ重い鞄で登校したが、教卓の前の席でいつも寝ていたらしい。
「ヒロシッ! 寝るんじゃない」
 と、どの先生にも言われていた。塾の先生に一対一で教わっていた時も、目の前で寝たという。
 開校記念日で休みなのに、弁当を持って一人登校したこともあったよな。ボーリングに行った時、自分だけ自転車で行ったのを忘れ、帰りは友達と車に乗って帰ってきた事も。迎えに行った松子様は呆れ返り、また車で自転車を取りに、ヒロシを送っていた。
 その度に酷く怒られたが、一度もグレたことがないのが、ヒロシのすごい所だ。良く言えば「おっとり」している。普通に話していれば好青年だ。ただ「反復・学習する」ということができぬ男に生まれただけである。
高校の頃。試験の前夜に松子様が、
「ヒロシ、がんばれよ」
 と声を掛け、翌朝も部屋を覗いてみると、ヒロシは昨夜と同じページを開いて、いつも居眠りしていたそうだ。そのせいか現在でも車の免許に数回落ち、未だ合格できない。

10月29日(金)
 そんなヒロシにも取り柄があった。まず、カラオケが驚異的にうまい。
 モニター画面に次々出てくる歌詞を、一字一句外さず朗々と歌いあげる様は、見事としか言いようがない。カーペンターズの歌も、まるでヘレン・カーペンターの生き霊が取り憑いたように流暢に歌い、周囲を「アッ」と言わせる。なのに英語は、動詞が過去形になるともうダメで、先生を「アッ!」と言わせている。
 そして、熱心なゲーマー。
 酒もたばこも全くやらず、外食もしない。貰った金は全てゲームに注ぎ込み、日夜ゲーム制覇に励む様子は本当に痛々しい。
 かつ、大食らいである。
 下宿ではどんぶり飯を朝2杯、夜3杯ペロリと平らげていたそうだ。だからヒロシがどんぶりを持つと、どんぶりが普通のご飯茶碗に見えるから、本当に不思議だ。
 こんなこともあった。
 お母様(ヒロシの祖母にあたる)が寿司を五人前買い、「ちょっと多すぎた」と思いながら帰宅したら、なぜか玄関にヒロシが立っていたという。
「なんで、コイツが来てるんだ・・・」
 チッ!と舌打ちをし、「不死鳥」であるお父様の分は六個取り分けておいたが、残りは案の定ヒロシがパクパク食べてしまった。
 すると、それまで寝ていたお父様が、不死鳥のようにムックリ起き上がり、
「ヒロシ! 人の家に来て寿司を食うときは六個までだッ!」
 と一喝。ボケ老人が、いつの間に観察していたのかと周囲は呆然としたという。

10月30日(土)
 しかし、ヒロシには立派な習慣があった。現役時代から、親がいらないと言うのに、センター試験を毎年受けるという習慣である。そう、ヒロシの特徴は「おバカなのに律儀」という点であった。
 二浪目の受験旅行から帰ったヒロシは、
「筆記試験はチョー簡単だった」
 と余裕をかましていた。そう言って、前の年も落ちていたよな。
「でも、面接が全然わからなかった」
 と続けて言ったヒロシ。こいつはいったいどこの国の人なのか? 
「三年続けて同じホテルに泊まったから、ホテルの人もびっくりしたろう。来年の受験ではホテルを変えさせる」
 と仰っていた松子様。ところがその年、ヒロシは某私立大学に、やっと、ようやく、辛うじて、合格したのであった。
「ウッソー!」
「大学じゃなく高校に受かったんじゃない?」
「身代わり受験じゃないだろうね」
 皆、耳を疑った。そして本当だと判明した時、一同狂気乱舞したのだった。ヒロシは当然のごとく、その唯一の私大に入学した。
 ところがである。次の年の一月、ヒロシはまたまたセンター試験を受験したのだ。いったい何を考えているのだろうか。
「他人が一生懸命に答案書いてるのを見るのが好きなのか?」
 松子様はそう分析していた。しかし、ヒロシは大学を変えることなく、今年三月に某私大を卒業したのである。
 その時のセンター試験結果は推して知るべし。それより大野家には、四年で卒業できたことが、何よりも驚きであった。

10月31日(日)
 そのヒロシに「中学校の臨時講師」の話が舞い込んできたのは初夏の頃である。
「まさか!」
「車の免許も取れない男が先生になるわけ?」
 大野家に再び衝撃が走った。そして、青森教育界の常識を疑ったのは言うまでもない。 ヒロシは去年、教員採用試験に一次で落ち、今年は受験もしていなかった。他も落ちたので仕方なく、四月から電気屋のバイトをしていた。もちろんカラオケと、ゲーム攻略に日夜励みながらである。そんな男になぜ「教師」が勤まるのか?
「ヒロシの教員免許の種類が珍しいんだって」
 と松子様。しかし、あの男に「先生」が勤まるとは思えない。授業中、教卓で寝てもおかしくないと思う。生徒の弁当も食い尽くすだろう。絶対にすぐクビだと一族は思った。 ところがである。ヒロシは今、学校で人気者らしい。中学生とはゲームの話で盛り上がり、同僚の先生方とは飲んで盛り上がる。カラオケの達人だから重宝されているらしい。本当に何が幸いするかわからない。しかし、授業はしているのか?
 今のところ、致命的ヘマはないようだ。
「毛が三本足りないことを見抜かれるな!」
 という松子様の言葉にも、素直に「うん」と頷く、おバカなヒロシであった。
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