スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

お父様の髪はフサフサ、お肌はツヤツヤに。

眠い
焼肉を夢見る由紀夫。



Pink Tea Time 1999年10月号

9月25日(土)
 アートネイチャーの実況CMが気になっている。
 実験台となっている、例の若ハゲ男。その不幸な男の頭頂部が、徐々に濃くなっていく様子をリアルタイムで報告するという試みらしい。斬新なCMだ。
 そして今、うちのお父様には同じように斬新なことが起こっている。
 もうすぐ79才になろうという老人の髪が、最近フサフサに茂りだし、色も前より白髪が減って、黒々と変化してきているのである。 ああ、恐るべきことだ。これが去年、何度も生死の境を彷徨った大病人だろうか。
「おじいちゃんは、あさって死ぬのじゃ」
 が口癖だった老人か? それとも実は、アートネイチャーのモデルだったのだろうか? 我が父ながら、真の正体を疑ってしまう大事件である。

9月26日(日)
「多分、イカの刺し身だと思うよ」
 とお母様は分析している。
 病気の主原因は酒だったので、飲酒は厳禁のお父様。かと言って他に楽しみがあるわけもなく、興味は自然と食い物に移ったわけだ。
 でも、たまに食堂に入ると、
「おじいちゃんは、とりあえずビールじゃ」
 と言い、お母様に足蹴りを食らっている。
 お父様は毎日三食、モリモリ食べている。死ぬはずだった老人が、予定外に生き返った。そこで半分ヤケになったお母様は、お父様の年金を使いまくっているらしい。食費にも相当にお金をかけている。
 以前は鳥のエサほどしか食べなかったお父様。それが今は馬のような食欲である。そして夕食には決まって刺し身。特にイカが好物で、毎晩食べるとお母様はおっしゃる。
「他に原因は見当たらないよねぇ」
 もしこれが本当なら、早速アートネイチャーに情報を売ったほうがいいのではないか。あの不幸な若ハゲ男にイカサシを毎日食べさせ、実況中継してほしいくらいだ。

9月27日(月)
 実は頭の毛だけではない。全身のお肌がツヤツヤになってきているのである。
 入院前のお父様は、やせ細っていた。近年、日々隆隆たる勢いで逞しくなっていたお母様とは対照的に、日々ヨレヨレと萎びていったお父様。肌もだらりと弛んでいた。
 ところがどうだろう。今は太ったせいもあり、とても79になるとは思えぬお肌の張りとコンディションだ。
「タワシも効いているのかねぇ」
 年を取ると老人性ナントカといって、身体の痒みを訴える。お父様はお母様やお姉様に命じ、毎日亀の子タワシでゴシゴシと身体を掻いてもらっているのだ。もちろん、頭も。 私も一度掻いてあげたことがあるが、
「もっと、力を入れるのじゃッ!」
 というお父様の厳しい注文に、呆れたことがあるよな。
 純和風の三度の食事と強力タワシ・マッサージ。これが美しい髪とお肌を造ることを、79にして証明しているお父様。
 ウーン、恐ろしい。お父様を主役にして、「パラサイト・ジジ」という映画でも作ってほしいと思う今日この頃だ。

9月28日(火)
 ところで夏のベトナム旅行中、夫はお風呂でも節約していた。
 衛生面で不安だというので、今回の宿は一流ホテルを利用したが、夫は一日に5回くらいもお風呂に入るのである。
「入り溜めしておかなきゃ。何回入っても値段は同じだからね」
 家ではガス・水道代に敏感な夫。いつもは湯船に半分以下のお湯に、寝そべるように浸かっているので、これほどの風呂好きだったとは、今まで気づかなかった。
 そしてホテルマンやタクシーのチップには、いつも相当悩んでいたよな。
「ねえ枕元に置くチップさぁ、五百ドンにする? それとも八百ドン?」 
 五百ドンは日本円で約五円、八百ドンは八円だ。そんなレベルで悩んでいて、一体どうなるというのか?
「五千ドンくらいあげなさいよッ!」
「そんなことしたら、ベトナムがインフレになるじゃないか。異邦人が地元民の金銭感覚を乱すのはよくないよ」

9月29日(水)
 そんなベトナムでのある日、一万ドン(約百円)を八千ドン(八十円)に値切って買ったミネラル水が偽物だった。ラベルが某メーカー品にそっくりだが、名前が微妙に違う。ボトルの口も最初から開いていた。
 その悔しさ以来、夫の用心深さには、ますます拍車がかかったようである。
 あるレストランのメニューには、同じ料理に三種類の値段がついていた。私は騙されるところだったが、夫がしつこくウエイターに聞くと、「値段が人種によって違う」と信じられないことを言うではないか。
 つまり「市内の住民」「ベトナム人」「外国人」という三段階の値段があり、市内住民と外国人では倍くらいの差があった。
「オー、ワタシタチ、ベトナム人デース」
 と言おうかと思ったが、色白で一重瞼の私がベトナム人に見える訳もなく、我々はサッサとその場を立ち去った。
 別の中華レストランでは、予想外にビールが安かったので、夫は、
「これ、瓶が厚いんじゃない?」
 と真剣にガラスを透かして見ていたよな。

9月30日(木)
 そしてある日。千円札(約十一万ドン)を両替したところ、郵便局のお姉さんが間違って、十倍の百十万ドンもよこしたという事件があった。
 両替したのは、財布管理を担当する夫。が、しばらくして気付いたのは私だった。買い物しても、ドン紙幣が妙に多い。夫は私に言われ、やっと気付いたのである。
 私は不思議だった。一円単位のチップで苦悩し、八十円の水で地団駄を踏む男なのに、なぜ九千九百円も多いことに気付かなかったのか?
 しばらく考え、私は納得した。この男に「損した」という思考回路はあるが、「得した」という思考回路は無い。つまり、お金が少ないと鋭く反応するのに、お金が多いことには鈍感で、それを当然だと思ってしまう「貯蓄体質な男」だということを・・・。
 夫「返すことないよ。向こうも気付いてないに決まってるじゃん」
 私「でも、彼女がクビになったらどーするわけ? 一生日本人を恨むよー」
 結局、私たちは返金に行った。例のお姉さんも間違いに気付き、二時間も私たちをオロオロと探していたのだった。暗い顔で道端に立ち、周囲を見回している所にちょうど遭遇した。
九千九百円は九十九万ドンだから、きっと彼女の月給位だよな。
 現れた私たちを見て、ものすごーく嬉しそうだったお姉さん。「サンキュー!」を何度も繰り返すので、私たちは「日本親善大使」のような気分で帰国したのである。
スポンサーサイト

COMMENTS

COMMENT FORM

TRACKBACK


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。