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誰もが二倍の料金をふっかける国

笑う由紀夫
爽やかな笑顔の由紀夫。


Pink Tea Time 1999年9月号

8月27日(木)
 あきれるほど用心深い男。
 先の先まで読む、用意周到男。
 こんな男と結婚すると、女は本当に苦労する。うちの夫がそれだ。
 最初は「すごいなぁ、頭いいなぁ」と関心していたこともあった。たとえば一緒にスーパーに行くとこんな感じ。
 冷凍食品売り場で、一番上のカニコロッケを取ろうとすると、
「アッ、何をするんだッ! 一番底のヤツを買うのが基本だろ。外気や人の手に触れないから、溶けてないんだ」
 「半額シール」が貼られたお総菜のメンチカツを、すかさずカゴに入れようとすると、
「ダメダメッ! シールの製造時間を見ろよ。こっちは午後6時、そっちは午後1時。こっちの方が5時間も新しいだろ」
 目からウロコとは、こういうことを言うのだろう。その日から私は、夫を「暮らしのアドバイザー」と仰ぎ、正しい買い物の仕方を身につけていったのだった。
 しかし、「過ぎたるは及ばざるが如し」。今回のベトナム旅行でも、散々夫の用心深さに付き合わされたのである。

8月28日(金)
 ぼられる国、ベトナム 。
 ベトナムは社会主義国だが、スキあらば一儲けしようと企む人々が、町中にひしめいている。つまり、全国民がうちの夫のような人だと思っていただきたい。
 今年の夏はベトナム二週間。だからというわけではないが、登山用のリュックサックを借り、我々はゲリラのような恰好で出発した。
 この国では、誰も信用できない。ことお金に関しては、誰もが二倍以上の料金をふっかけていると言ってもいいと思う。
 宿泊した一流ホテルのベル・ボーイにも、ぼられるところだった。空港までのタクシー料金を20ドルだと言うのだ。本当は10ドル。差額は自分のポケットに入れるということが後で分かった。
 路線バスでも同じ方法で客寄せしてたよな。たった一〇〇m対岸に行く渡し船を、一人5ドルだと言い張ったヤクザなオヤジもいた。 この渡し船、ガイドブックには2ドルとある。だから、
「ウッソーッ。高すぎじゃん!」
 と相当値切ったのに、このオヤジ、がんとして譲らないのだ。仕方なく払いましたよ、二人で10ドル。
 ところが間もなく着岸した船から降りてきた人に聞いたところ、やっぱり2ドルだったと言うではないか! 
 我々は、即座にクルリとオヤジに向き直り、「返せ!」「金返せ!」「とにかく返せ!」「全額返せ!」と、10分くらい左右からわめき散らした。色黒のオヤジは、ますます顔をドス黒くして怒り、ワケわかんないベトナム語で鶏のように吠えていたが、結局我々の「金返せ」コールが勝ち、差額を全部返してもらったのだった。ザマーミロって感じ。

8月29日(土)
 タクシーの初乗り百円。うどん一杯50円。
5時間乗る路線バスが三百円。物価は日本の約五分の一以下なのに、そんな安いタクシーにも、乗っているのは観光客だけだ。相当に所得が低いのだろう。
 ホテルに着いてベットでゴロゴロしながら、夫に話しかける。
「あなたさぁ、ここに住んで、節約してお金貯める方法を教える先生になったら?」
 すると、夫がキッパリ言う。
「いや、だめだね。貧しい国でお金は貯まらないんだ。物がない国では商品の流通が少ないからね。一方、豊かな国では商品が大量に動く。すると必ず余る物が出るだろ。そこにササッとつけ込んで、安く買うんだよ」
「ふーん・・・・」
 この男、以前貧しい国に住んだことがあるのだろうか。一体どこでこんな事を考えつくのだろう。経済学部の出身でもないし、仕事にも無関係なのに、と本当に驚くばかりだ。カカト・シールも開発してるしな。

8月30日(日)
 話はちょっと脇道に逸れたが、本筋は夫の用心深さのことであった。
 ベトナムで怖いのは食中毒とマラリア。特にマラリアは死に至る病ということで、夫は準備・研究に余念がなかった。
 そして、ホームセンターのサンデーで「キンチョールの特大」を購入。消毒用アルコールと共にリュックに潜ませ、ベトナムの蚊に挑戦すべく、颯爽と出かけていったのだ。
 ところがである。
 折悪しく世間は、機長が刺殺されたハイジャック事件の直後。金属やスプレー類に、ピリピリと神経を尖らせていたのである。おかげでどの空港の赤外線探知機でも、「ビーッ!ビーッ!」と、夫が止められる。そして警備の怖そうなお兄さんが、夫に尋ねるのだ。「一体何ですか?  この大きなキンチョールは?」
 両手でスプレー缶を高く掲げるお兄さん。注目する周囲の人々。
 さらにリュックの中から出てくるのは、虫除けスプレー、二缶。
「ベトナムの蚊は、油断できませんからね」
 と、にっこりと答える夫。
「・・・機内では絶対に使わないで下さい」
 こんなやり取りが何回あっただろうか。
 さすがに機内では使わなかった。しかし夫はホーチミン空港の中で、周囲3m内にキンチョールを大量に散布していたよな。確かに蚊はいたが、人々は夫の奇妙な行動を見て、相当にあきれていた。

8月31日(月)
 そのお陰だろう。夫は二週間いて、ただの一度も虫に刺されなかった。キンチョールを撒いた上、虫除けスプレーまで塗って、夜寝ていたからね。虫除けスプレーは、一日6回は使っていたと思う。
 私は一回だけ蚊に刺された。すると夫。
「マラリアの潜伏期間は一週間らしいよ。でも君が死んでも、僕が保険金を貰えるわけじゃないからなぁ」
 世間では結婚すると、保険金の受取人名義を、お互いの配偶者に変えるのが普通らしい。ところがうちの夫。「万が一」のことを考えて、しばらくは実父名義のままにしておくと言うのだ。
「君がいつ家を出ていくか、わかったもんじゃないからね」
 だから当然、私の保険も名義変更をしなかった。
 つくづく、本当に、用心深い男、夫。その「用心男」がなぜ私と結婚したのか?  そこが未だに大きな謎と言うべきであろう。
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