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「風呂が、混浴なのじゃ」の巻

春の憂い
「今日のご飯は何かのう…」と考えている由紀夫



Pink Tea Time 1999年4月号

3月8日(月)
 ついに家を買った。
 築六年の中古住宅。長年のドケチ生活の努力が結実したわけである。
 ところが、引っ越しまで2週間という時になって、夫が、
「さあ、今日から節約モードに入るぞ!」
 と、意外なことを言い出すのだ。今日から節約って、これまでの生活は何だったの?
 鼻かんだティッシュも捨てず、便座ヒーターの温度のことでまで、喧嘩しながら節約してきたのだ。牛乳やお惣菜も、半額シールがない物は絶対買わなかったじゃないか。
「人生、半額。何でも半額。半額で買ったら喜びは二倍だろ」
 これが、夫の口癖だ。しかしこれ以上、一体どうやって節約しろというのか?
 次の日から夫は、コーヒーが切れても絶対買わなくなった。
「今買ったら、引っ越しの荷物になるだけだよ。紅茶も日本茶もある。それにコーヒーは職場で思いっきり飲めるだろ」
 いつもはトーストに乗せるチーズも買わなかった。
「トーストには、ジャムも合うんだよ」
 切れた蛍光灯もそのまんま。
「大家にアパートを引き渡すのは昼だから、電気までわからないよ。いつも使わない蛍光灯と交換すれば、ほら、変わらないだろ」
 夫はこのアパートに越した時、電気代がもったいないからと、三本ある蛍光灯の一本を抜いてしまっていたのだ。

3月9日(火)
 シャンプーもかなり前から無くなっていた。それを、旅行した時ホテルから持ってきて、箱一杯に溜めたホテル用のシャンプーを使い、今までなんとか凌いでいた。
 私たちは旅行する時、使いかけのシャンプー・ボトルや石鹸を必ず持参する。そしてゲスト用の石鹸類を使わず、すぐに全部、鞄にしまってしまうのだ。すると次の日は、掃除係の人が新しい石鹸を置いていってくれる。これを繰り返して旅行していると、泊まった分だけ石鹸が溜まり、ほとんど自分で買わなくてもいいくらいになるのだ。
 そのため、石鹸は今まで一度も買ったことがないし、シャンプーを買わなくなってからも、もう一年半は経つ。ところがそのシャンプーも、そろそろ底を突きそうなのだった。 私が買おうと言いだすと、夫。
「まだ3パックもあるじゃないか。ここでシャンプーを買っちゃったら、引っ越しの時、『ま、いっか。3パック位、捨てよう』ってことになるんだよな。そんな二重の無駄は避けたいだろ」
「・・・・・・・・」
 最初は呆れた私だったが、それも道理かもしれないと思い直し、夫以上の節約アイディアを考案してみた。それは、パックに入っていたシャンプーをミニ・ボトルに絞り出し、水で二倍に薄めて使うという必殺技である。 すると、夜お風呂から上がった夫が、「きみって、セコイよね」と一言。
 あんたにだけは言われたくないよッ! とむちゃくちゃ理不尽な思いがするのは、果して私だけであろうか。

3月29日(月)
 さて、善人ほど早死にするとよく言われるが、どうやら本当のようだ。先日、三十代後半の友人が、心臓発作で急死した。
 彼はとても生徒に慕われていたウルトラ熱血バリバリ教師で、「青森の武田鉄也」と呼ばれたという。高校時代は野球部主将で、殺しても死にそうにない肉厚の男であった。
 それに、ヒロシ(松子姉様のドラ息子)の大学の先輩も、去年、白血病で急死した。享
年23歳 。同じ下宿にいたヒロシの面倒
を、実の親の松子様よりもよく見てくれたという、聖人のような人であった。
 ああ、それなのに世の中はわからない。いつ死んでもいい78歳のお父様は、ターミネーターのように蘇っているのだから。
 もう長くないと医者に匙を投げられ、三軒の病院を行ったり来たりし、
「誰が死亡診断書を書くんだッ!」
 という問題で、医者に一騒動を巻き起こしたお父様・・・。
 そのお父様、今はすっかり普通の人になり、この間は自転車で銀行にも行ったらしい。家族が止めるのを振り切り、
「お金をおろすのじゃ!」
 と叫んで、ママチャリで逃走したという。 お母様が慌てて後を追うと、ちゃっかり椅子に座って、27万円払い戻していた。ボケてるのに、どうやってお金をおろしたのか?
 医者も先日、「おじいちゃんは、劇的に回復していますッ!」と、「劇的」という言葉を何度も使っていた。おそらく科学的にも解明できないだろう。

3月30日(火)
 とは言え、家にただ居ても「置物っぽい」だけなので、近くの老人施設に週3回、デイ・サービスに行っている。
 デイ・サービスってのは、本当に素晴らしいシステムなのであった。
 幼稚園児の送迎サービスのように、あまり家にばかり居られちゃ困る老人を、バスで迎えにきてくれる。そして風呂に入れた後、レクレーションタイムに手踊りまで踊らせるらしい。しかも昼食とおやつ付き。それでもって一回六百円とは!
 お父様もすっかり気に入ったらしく、デイ・サービスの日は早めに起きて髪をなでつけ、張り切って出掛けていくそうだ。一体何がお気に入りなのか聞いてみると、
「風呂が混浴なのじゃ」
 との答え。やはりお父様は、ひでえエロじじいなのであった。
 
3月31日(水)
 デイ・サービスの日以外は、たいてい居間で寝ている。明日の混浴への英気を養っているのだろう。お母様によると、「24時間のうち、20時間は寝ている」そうだ。
 ところがおやつの時だけ、突然ムックリ起き上がる。「おやつじじい」ぶりは相変わらずだが、「酒じゃ!」と言いださなくなったのは本当に不思議だ。お酒のことも忘れてしまったのだろうか。
 だって先日、お金を自分でおろしたので、遊びにきた孫のヒロシに3万円あげていた。 ところが、ヒロシが帰ってから、
「あの若者は、誰の子供だったかのぅ」
 と言っていたのだ。本当に困ったものだ。 それでもお母様は、時々ハラハラすることがあるという。それはお父様がテレビを見ていて、酒のCMが流れた時だ。また酒を飲みだしたら、病気生活に逆戻りしてしまうのは目に見えている。
 ある日、地ビールのCMを見てお父様。
「地ビールってのだけは、おじいちゃんも飲んだことないのじゃ。一度飲んでみたいのう・・・・」
 聞こえないふりをして、お母様が「エクアドル産完熟バナナくん」を差し出すと、何事もなかったように、お父様はバナナくんをむつむつと食らい始めたという。
 めでたしめでたし。しばらくは完熟バナナくんで行ってほしいと思う、今日この頃だ。
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